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大阪地方裁判所 昭和56年(わ)2911号 判決

主文

被告人両名を各懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中、被告人松ヶ瀬に対し九〇日を、被告人秋田に対し一〇日を、それぞれの刑に算入する。

押収してあるポリ袋入り覚せい剤一袋を被告人両名から没収する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人松ヶ瀬は、法定の除外事由がないのに、昭和五六年七月二日午前四時ころ、大阪市住之江区《番地省略》の自宅において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶耳かき五杯位を水に溶かし、自己の身体に注射して使用した。

第二  被告人秋田は、法定の除外事由がないのに、右日時、場所において、右同様の覚せい剤結晶耳かき五杯位を水に溶かし、自己の身体に注射して使用した。

第三  被告人両名は共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、被告人松ヶ瀬において同月三日午前零時ころ、同市西成区《番地省略》A'ことA方において、同人から、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶〇・三四グラムを代金一万円で譲受けた。

(証拠の標目)《省略》

(判示第三の罪に関する共謀の存否について

被告人両名及びその弁護人は、判示第三の罪は被告人松ヶ瀬の単独犯行であって、被告人秋田との間に共謀はなかった旨主張する。前掲の証拠によると被告人両名は昭和五五年一〇月末ごろから同棲し、そのころから二人で覚せい剤の注射をくりかえしていたものであるところ、当初は被告人秋田の知合である通称「テッちゃん」から覚せい剤を購入していたが、同人が昭和五六年三月ころ逮捕されたことから、同年四月以後は判示記載のA'ことAから購入するようになり、すでに同年四月に三回位、五月に七回位、六月には一〇回位購入して被告人両名でこれを使用しており、その購入の際にはいずれも被告人秋田の運転する自動車に被告人松ヶ瀬が同乗して右A方近くまで赴き、被告人秋田が提供した資金により、被告人松ヶ瀬がAから覚せい剤を受取って購入していたものであることが認められ、右のごとき被告人両名の関係及び従前の経緯に照らすと、本件の場合も従前と同様、被告人秋田は、被告人松ヶ瀬が二人で使用するための覚せい剤を購入する目的であることを承知のうえ、自らも覚せい剤欲しさから被告人松ヶ瀬を本件犯行現場まで自動車で運び、かつその覚せい剤の購入資金として金一万円を同被告人に提供したものであることが明らかであり、被告人両名が捜査段階で認めているとおり、その間にあらかじめ本件覚せい剤購入についての共謀が成立していたと認めるのが相当である。前記主張は採用できない。

(予備的訴因を認定した理由)

検察官は主たる訴因として「被告人両名は共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、昭和五六年七月三日午前零時五分ころ、大阪市西成区天下茶屋北一丁目三番二三号先路上において、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶〇・三四グラムを所持した」旨主張し、予備的訴因として判示第三記載の事実を主張する。前掲の証拠によると、判示第三記載のとおり、被告人松ヶ瀬において覚せい剤を購入してこれをズボンのポケットに入れたまま、帰途につくべく、自動車の駐車場所である西成区天下茶屋北一丁目三番二三号先路上(購入場所から約一五〇メートルのところ)に戻ったところ、この間右自動車の中で同被告人の帰りを待っていた被告人秋田が警察官の職務質問をうけて被告人松ヶ瀬が覚せい剤購入に赴いていることをあらかじめ自白していたことから、被告人松ヶ瀬が右自動車駐車場所に戻ったところを待機中の警察官に発見され、逮捕されたものであることが認められる。検察官は、右自動車駐車場所に被告人松ヶ瀬が立戻った時点での覚せい剤の所持をもって所持罪が成立するとし、これを主たる訴因として主張するのであるが、右の事実関係に照らすと、右の時点での所持は、その方法態様において、検察官が予備的訴因として主張しかつ立証するところの覚せい剤の譲受に当然に随伴する所持であって、このような所持は、譲受に一連する包括的行為として予備的訴因たる譲受罪に吸収され、独立の所持罪を構成しないと解すべきである。

(法令の適用)

被告人松ヶ瀬の判示第一の所為及び被告人秋田の判示第二の所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に、被告人両名の判示第三の所為は同法四一条の二第一項二号、一七条三項、刑法六〇条に、それぞれ該当するところ、被告人松ヶ瀬については判示第一の罪と第三の罪、被告人秋田については判示第二の罪と第三の罪がそれぞれ同法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により、被告人松ヶ瀬については犯情の重い判示第一の罪の刑、被告人秋田については犯情の重い判示第二の罪の刑に、それぞれ法定の加重をした刑期の範囲内で処断することとし、被告人両名を各懲役一〇月に処することとする。なお、被告人両名がともに覚せい剤の使用歴が長くその使用頻度も高く、高度の常習性が身についていると認められること、とくに被告人秋田は昭和五五年一〇月覚せい剤使用の罪により懲役一〇月、三年間執行猶予に処せられたにもかかわらず、その直後から再び覚せい剤使用をつづけていたことが認められること、また、被告人松ヶ瀬も昭和五五年九月に覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕され、被告人秋田ほか一名に覚せい剤の注射をしてやった事実及び自己使用の事実について取調べをうけて起訴猶予処分により釈放されたにもかかわらず、その直後から再び覚せい剤使用をつづけていたことが認められること等の事情にかんがみ、両名について刑の執行を猶予するのはいずれも相当でない。刑法二一条を適用して、未決勾留日数中、被告人松ヶ瀬に対し九〇日を、被告人秋田に対し一〇日をそれぞれの刑に算入することとし、押収にかかる覚せい剤一袋は判示第三の罪にかかるもので被告人両名の所有に属するものであるから覚せい剤取締法四一条の六本文により被告人両名からこれを没収することとし、被告人松ヶ瀬にかかる訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書によりこれを同被告人に負担させないこととする。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊忠嗣)

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